こよりのはじまり

こよりを量産する日曜の昼にさわやかさなど全く無く、オレは、ジャージの上にヘンテコなフリースを羽織り、カーテンを締め切った部屋で黙々と作業する。その姿はまるで妖怪の類であったと今となっては思う。
全ては己で己のくしゃみを支配するため。
それはささやかな反抗心。
オレは、くしゃみをいっぱいすれば、風邪が早く治るのではないかと思っている。
風邪の総量はあらかじめ決まっていて、例えば今回の風邪は「せき×200回」分、今回は「小くしゃみ×5、大くしゃみ×30、寒気×2、吐き気×3」分となっているのではないかと、オレは昔から睨んでいる。
だから、くしゃみをいっぱいして、その量を自ら進んで消化しようとする。
くしゃみをする度に肺が痛む。しかし、そんなやわな痛みで中断してしまう程、オレの自説「風邪総量論」は薄っぺらではなく、うっすらと涙を浮かべながらあくまでも機械的にくしゃみをしつづけるのであった。妖怪は得体の知れないストイックな執念というか妖気を、部屋というか磁場に充満させて。



しかし、そんな計画的な思惑をよそに、頭がぼーっとしてきた。鼻水がとまんない。
ああ、そうか。
今回の風邪はもうちっと大きめの総量だったんだなと上方修正する。
心地良い疲労感でオレはベットに横たわる。
暇だから、雑誌を読む。
部屋の雑誌を片っ端から読む。
そして、ある雑誌にたどりついた時、オレは気付いた。



オレは風邪を上乗せしてはいないだろうか?



雑誌を読むということはライフスタイルを思案するということである。
今のオレが幾多の雑誌で育まれてきた、という事実を、オレは否定できない。
中学生のオレは「HDP」のフィルターで世間(女子)を見ていたし、高校生のオレは「SPA!」の記事で社会人とは何たるかを考えていた。



パチスロ必勝ガイド(2002年7月号)」は、その名の通り、パチスロの雑誌ですが、オレに「上乗せ」という言葉でもって、オレの行為は風邪を悪化させているにすぎないということを教えてくれたので、買った雑誌は捨てちゃいけないと思いました。そして、こよりはよくないと思いました。風邪に量なんてないと思いました。