夜更かしのはじまり

久しぶりにTSUTAYAに行った。
1年前なら最低でも週1で通っていたし、学生時代なら下手すると毎日通っていた。部屋にあのTSUTAYAのザラザラした袋が転がってない日は無かった。(そして自慢だが、某駅のTSUTAYAの邦画映画王に選ばれ、1ヶ月レンタルし放題だった時もあった)
それがこのていたらく。
ロード・オブ・ザ・リング」のキャラクターの名前でギャグを言われても、ピクリとも反応できないこのていたらく。
大丈夫、「LOTR」を知らなくても、オレは生きていける。とそう思ってから、オレのTSUTAYA熱は、以前にも増して、一層冷え込んでいった。
オレの映画というのは申し訳ないが、モテのツールにしか過ぎなかった。
映画は好きだった。
でも、その時、オレの周りにはオレよりも映画を語れる人がいっぱい居て、その人たちがとてもカッコよく見えた。
オレは映画に詳しくなろうと思った。
映画を語れることが、モテに繋がると思って邁進した。
そんなモチベーションで進学まで決めてしまった。
すげー。男子校パワー。



そして、女子と映画を観に行く機会は増えた。
映画を見終わった後、お茶とかもして、それはとても楽しかった。
映画に詳しくてよかった、とオレはオレに感謝した。



色んな経験をした今、映画以外の楽しいことを覚え、映画の力を借りずとも女の子と酒を飲みに行ったり、買い物したり出来る。楽しい時間を過ごすことが出来る。
勿論、映画を観に行ったりもする。映画を娯楽として楽しんで出かけている。
当たり前だ。映画は娯楽だ。
でも、あのオレには映画は娯楽以上の意味があった。オレにとって、映画とはアイデンティティーだった。やらしい奴だった。映画的知の優越感を確認することでオレはほっと出来た。



ジャームッシュはさぁ、エロスとかを恥らんで描く監督じゃん」
オレは最近、よく眠くなる。
昼の1時とか2時とか、昼飯を食べた後ぐらいの絶妙な時間に襲ってくる睡魔に耐えられなくなる。
その昼も、渋谷の焼鳥屋で焼鳥丼を食べて、オレは急激に眠くなっていた。このまま職場に戻ったら、確実にキーボードによだれをたらすことになるだろう。オレは寝場所を探し始めた。しかし、30分位仮眠をとりたい。と思ってうろついてみると、そんな都合のいい場所ってのは結構ないんだってことに気付く。マンガ喫茶は常日頃愛用しているが、新規受付とかなんとかしていたら5分は削られてしまうだろう。そんな時間はもったいない。名前書くのとか、メンドクサイ。とにかくすぐに目を閉じたい。椅子に体を凭れたい。出来れば横になりたい。そしたら、喫茶店が目に入った。そうか。ここだ。さすがに横にはなれないだろうけど、まあ、いい。オレはすぐさま店に入り、アイスコーヒーと共に、席についた。店内は昼過ぎだというのに学生らしき人たちで混み合っていて、さすが渋谷であったが、オレはかまわず欲望のままに目を閉じた。
そして、聞こえてきたのが、先の発言。
ジャームッシュはさぁ、エロスとかを恥らんで描く監督じゃん」
ジム・ジャームッシュジャームッシュという奴ははじめてだったし、どんだけジム・ジャームッシュのことを知ってんだってーの、とオレはそいつが気になって、寝るどころのアレではなくなった。
「映画ってのは、実時間を省略と強調でもって、映画時間に編集していく作業じゃん」
「ジャン・リュックは、自分のテーマを一貫していながらも、違うモチーフの映画を撮影してたね」
ジャン・リュック?
ああ、ゴダールか。
とにかく、そんな感じでキツイのだ。全身を掻きむしりたくなる赤面発言のオンパレードで、勘弁してください、な感じだったのだ。
オレは明らかに彼に仮眠を邪魔されていた。全身をよじって、もだえていた。
でも、不思議と店を出ようとは思わなかった。
オレは彼の発言と昔のオレを重ね合わせていたのだ。キツかったのは、彼の姿勢がオレにわかったからだ。ジャームッシュとかジャン・リュックとかとは言わなかったけど、オレは映画を語りたがっていた。映画を語っている自分を見せようと頑張っていた。
ああ、恥ずかしい。なんて恥ずかしい奴だったんだろう。
女の子が映画デートしてくれたのも、オレの「ものめずらしさ」、が勝っていたからかもしれない。
彼の発言の恥ずかしさで、オレは眠いとか言っている場合じゃなり、結果的には良かった。そして、オレは純粋に映画を愉しむことを忘れてしまったのかもしれない、と思い起こさせてもくれた。「ユージュアルサスペクツ」の、「ショーシャンクの空に」の、「リトルヴォイス」の、心揺さぶられた映画体験。



アイデン&ティティ」と「ゼブラーマン」を借りた。
アイデン&ティティ」は一昨年、一番感動した映画で、オレはもう一度丁寧に見直そうと思った。
ゼブラーマン」は観たくて、でも結局見逃した映画。
明日は直行の仕事だから、ちと遅めの朝でも大丈夫。
今から夜更かしで映画。
楽しみだ。