恐ろしいのはじまり

まさか、電車の移動中に仕事をしてしまうような社会人になるなんて、思ってもみなかった。
移動中といえば、読書。それ以外の所作など思いもよらない私であるので、新幹線でノートパソコンを開き、エクセルをがちゃがちゃやっている人をみかけようものなら、ああ、なんてせわしないのだろう、って思っていた。大変ですなぁ。と。
私が職場で使っているアイブックは、ノートとか言ってる割に、やたらと重いので、持ち歩いたりしませんが、持ち歩いたところで、こんな風景が待ち受けているのなら、私のアイブックは、日の目を見ること無く、その美白を今後も欲しいままにする。


とにかく、スマートに生きたいと思う。
安っぽいのは百も承知で、ノートパソコンを持ち歩く先は、昼間のオープンカフェで決め込みたい、と思う私のスマートさ。
まあ、とは言っても現実問題、アイブックは重いし、カフェで仕事をこなすほどこじゃれてもいない私なわけで。
そんな中で出来るスマートさを考えると、私は移動中、ひたすら本を読むという行為に落ち着く。のんびりゆっくり本を読む。それが私のスマート限界点。
もちろん、読むのはもっぱら、コトラーなどのビジネス書が中心。
と、私はスマートに逃げ道も確保する。
こんなスマートstyleを私は選んでいた。


それがどうでしょう。


先日、携帯電話を新しいものに変えました。PCブラウザ機能がついています。つまり、出先で、パソコンと同じ機能でインターネットが出来ます。優れものです。


なので、
会社のメールが出先で見れます。それに対するレスポンスが出来ます。『今、移動中ですので、ええ、申し訳ありません』と小芝居を打つ必要がなくなります。読書出来る時間が削られていきます。


今たずさわっている業務は、メールのやりとりを頻繁にするお仕事なので、さきほども私、携帯電話の新機能をもちいて、データを確認し、返事をしました。


ああ、恐ろしすぎるユビキタス。やらなきゃならないことが、何の障害もなくやれてしまう言い訳きかないこの状況。そしてさらに恐ろしいのが、はたから見るとこの状況というのが、ただ単に携帯をがちゃがちゃいじっている遊び人みたいに陥ってしまっていることである。
まったくひどい仕打ちである。
こんなことなら、ノートパソコンで思いっきり仕事感を出して、同情された方が気がまぎれるというもの。

「お仕事?忙しいのね」
女は言った。
仕事に没頭していた男は、ノートパソコンから顔をあげる。
濃いグレーのスーツで身を包んだ女がいた。
隣りに座ったことにも気がつかないほど、
作業に没頭していたようだ。
「そんなに根つめていると、からだに毒よ」
女は男の手をパソコンからとりあげる。
男は、
快楽という名のOSをインストールすべく、
女を、
欲望という名のキーボードを、
軽やかに、
時に激しく、
ブラインドタッチした。

と、
ひどく病んだ妄想に旅立てるノートパソコンに分があろうというもの。


逃げ場なき携帯電話は私を次第に蝕んでいくだろう。
ボタンを打つ手は震え、目は窪み、頬はこけ落ち、肌艶は衰え、声は嗄れ、頭は痛みだし、常に被害者妄想、人をみたら盗人と思え。欲しがりません勝つまでは。ねえ、悪魔の断末魔が聞こえる。ほら、聞こえるでしょ?聞こえるでしょうが!なんで聞こえないの!と怒鳴り散らし、そして、髪の毛はおろか、髭の毛までごっそりと抜けていくだろう。
あな恐ろしや。



とここまで書いておいてアレだが、結構この状況に慣れてきた自分もいたりして、
『迅速な対応、ありがとうございます』
なんて言われたりしたら、げんきんなもので、うーん。ユビキタス悪くないなぁ。と言い出しかねない自分がいたりして、ごめんなさい、携帯電話って素敵です。みなさんが持つ理由もわかります。


んで私、ここぞとばかりに調子にのって、しばらく滞っていたブログを、移動中、携帯電話から更新。
「慣れ」もなかなか恐ろしいもんだ。
と思った次第でございます。