キリのはじまり

2週間前ぐらいからだろうか。職場の私の机には、キリがおかれたままになっている。キリというのはアレだ。穴を開ける方の、先が尖った方の、手に刺したりして遊んだりしているとうっかり血が出ちゃう方のバイオレンスなキリだ。チーズではない。チーズならペロリだ。
そんなキリが私の机の上に置かれて2週間経つ。


そもそも、私の机ってのは物を気軽に置きやすい机らしく、日に最低3本は誰のものか知らないボールペンが転がっていますよ、を皮切りに、計算機、クリアファイル、未記入の伝票などなど。出張とかで3日ぐらい席を外したら、大変なことになってますからね、私の席。コンクリートジャングル。そして、1時間ぐらい掛けて、持ち主探しの旅。
「このノートパソコン、誰のですか〜?」
みたいな。
なんてメルティーな午前9時。お紅茶でもいれようからしん。
なんてロマンティックワーキンしていたら、帰りが22時になって、憤慨しているのである。今更。
オレのアフター5を返せ。水曜どうでしょうのDVD観させろ。と。


んで、キリですよ。
2、3日呼びかけてみた。
「誰のキリっすかー?」
「先輩のキリっすか?」
「受付でキリ使いましたっけ?」
キリを日常業務で使うオフィスワークを私は知らない。
私とキリは、フロアを歩き回りました。
やはり、持ち主が見つかりません。
初めは、なんて邪魔なんだろう、と煙たがっていたのですが、
持ち主が見つからないのでは仕方ありません。
捨てるわけにも行かないので、今キリは仕方なく私のペン立てに混ざって佇んでいます。
キリは明らかに他のペンより長くて、自身の重みでペン立てをよく倒します。
というか、キリ自身が倒れるのに、ペン立てが巻き込まれているような感じですが。
机の引き出しにしまうにはちょっと長すぎて、足元に立てかけるにはちょっと短い。
キリ以外のなにものでもないキリ。
そんなキリがすこし不憫に思えてきた最近。


なんで君はここにいるのだろう。
なんで私の席に来てしまったのだろう。
私が所有するよりも、もっと君の輝ける場があるはずなのに。
なんか、ごめんね。
私が持ち主で。
そう思うと、それはそれで、メランコリックワーキン。
今日も帰りは22時。