深夜番組のはじまり

最近、携帯電話によくメールをいただく。ある日など、朝起きたら「受信メール 11件」となっていて、大変びっくりした。
なんだ! 緊急を要するのか! と、私は慌ててメールを開く。
しかし、よくよくメールを確認してみると、卑猥な文章とサイトのアドレスが記載されており、寝起きに知る情報としては、人としての道を大きく逸脱している。送り主を見ると、登録のされていないメールアドレスばかり。


なるほど。
どうやら、先方は送り先を間違っているらしい。


「送り先を間違っていませんか。申し訳ないのですが、確認してください」


そんな返信をしたいと思っている。
しかし、朝は忙しい。その間違いを指摘する時間があるほど、私は早起きではないのだ。出来ることなら、パンを齧って駅に向かいたい。曲がり角で女の子と衝突して、「もう!どこみてんのよー!プンスカ!」といわれて、朝のHRで担任が紹介した転校生がその朝ぶつかった女の子で、当然その女の子は私の隣の席にすわり、気まずい出会いながらも3歩進んで2歩下がる私とその女の子の関係のもと、学園生活をエンジョイしたい。
私の朝はそのような理想であるので、私はメールを送り返すタイミングを逃し、間違って送られてきたメールを、夜な夜なコツコツと削除しているのである。


だが先日、こんなメールがあった。
そのタイトル。


「深夜TV出演決定!!」


感嘆符が二つである。
よほど嬉しかったに違いない。
うんうん。
よかったよかった。
私も嬉しい。


しかし。
送り主がまた知らないアドレスなのである。
でも。
今回、彼、もしくは彼女は、深夜番組に出演するので、その番組をチェックすることで、送り主が誰かということを特定できる。あまりテレビをみない方とは言え、知っている人がメディアに取り上げられるのはやはり嬉しい。


んで、いつ出るのだろう?
メール内容を確認する。


書いてない。


書いてあるのは、卑猥な文章とサイトのアドレス。


ああ、間違ったのだな。
テキストを間違って、コピペしてしまったのだな。


私がもしかしたら知っているのかもしれないこの人は、月に2回程度、そんな間違ったコピペのメールを送ってくれる。いつもタイトルは「深夜TV出演決定!!」なので、もしかしたら、もう、レギュラーで出演しているのかもしれない。
是が非でも応援したい。
私の無為な夜更かしの時間を、その人のために使いたい。


私は待っている。
その人が出演時間を教えてくれるのを待っている。


と、このエントリーを書いている最中にメールが来た!
2通も!


「どこでもヤレます♪出会えます♪」
「飢えてるから即アポ確実!」


違う。
そうじゃないんだ。


もはや、メールうんぬんじゃないのかもしれない。
知らないメールを拒否する設定は、
今の携帯にはいくらでもある。


痛快な仕掛けが蔓延する日々を。
気持ちよい悪戯の爽快感を知る人の。
決して流れ作業じゃなく。
下らないことに注ぐその人の本気を。


私は待っている。


どうせ騙すなら、華麗に、軽快に、圧倒的に。
消すのが惜しくなるようなエンターテイメントを。


私は待っているのだと思う。


感服するまで練られたテキストに、
私は敬意を表し、ワンクリックを捧げる。


そんな日が来ることを私は待っている。