お祭りのはじまり

どうしてこうも、血がたぎらないのであろうか。
オレの地元ではこの土日、お祭りがある。お神輿がゆさゆさ揺れる例のアレだ。周りの人が、そりゃあもう、ものすごい勢いで、法被などを用意しているを見ていると、ああ、すごい楽しいことなのだろう、と思うのだが、いかんせん、血がたぎらない。頭では、楽しそうだな、と思えるものの、体がそれに追いつかないものだから、頭の方も、なんだか醒めてしまうのである。へえ、お祭りなんだ。頑張ってね。と。多分、お祭りは頑張るとかじゃない。
子供の頃は、よくお神輿を担いでいた。法被なんかも着て、髪型も、剃り込み激しい「お祭りカット」にさせられていたし。でも、正直言うと、小学校に行っているときの方が、お祭り騒ぎでプロレスごっことかしてたし、お神輿担ぐと、棒が肩に当たっていたかったし、なんかみんながやるから、仕方なく参加してたのだと思う。
というわけで、当然の流れなのだが、オレは小学校を卒業してから、お祭りに参加しなくなったのだが、そんな暗い兄をよそ目に、妹の方はすくすくと祭り人としての才能を開花させ、毎年のようにお祭りを心待ちにし、自分の名前が入った法被を持ち、地元じゃないお祭りにも足を運んだりする生粋の下町娘になった。楽しそうなことはいいことだ。何かよくわからないけど、君が楽しそうだと、オレも楽しいので、今後もお祭りとは、そういう「友達の友達のお姉さんが芸能人と同級生」みたいな遠い遠い関わり方で、彼女の感じる血のたぎりを、緩くはあるけど、わけてもらおうと決めました。なので、兄もかげながら応援しています。


今日、プールに泳ぎに行ったのだが、その帰りに宵宮と遭遇した。遭遇してしまった。
道が混んでいて、前に進まないじゃないの。
多分、こう思える時点で、オレはお祭りに向いていない。
だいたい、お祭りってのは、血気盛んな若者が「火事と喧嘩は江戸の華よベラボメ!」と謎なテンションでウロウロしていたりするので、そんなの関わりたくもないから、お神輿を見物しに行ったりすることはしないのですが、今日はプールで疲れていたので、無理に道を渡ろうとすることなく、ただただ、ぼーっと眺めていた。


ちょっと、血がたぎった。


いつの間にかハレの舞台を欲しているのかもしれない。カラオケでソファーの上にあがって熱唱するだけじゃ足りないかもしれない。自分ではあんまり感じないが、知らぬところでストレスを感じているかもしれない。
なんかオレ、お神輿見て、感傷にふけってしまったよ。


けどすぐさま、そんな風に思った自分が恥ずかしくなって、オレはその場から立ち去ることにした。
脇道に入ると、さっきの喧騒が嘘のように、人の姿が見えなくなった。


わっしょいわっしょい。
遠くに聞こえるその掛け声。ウォークマンをつけるのをやめ、今日はちょっと血のたぎりを持続させてもらおうと、こっそり意識を耳に集中したりした。