出会い頭のはじまり

街で知人や友人とばったり遭遇した時、
「うわー。びっくりしたー!」
と、のけぞってみる。(自転車に跨っていたら、転倒するぐらいのリアクションが望ましい)
もしくは、
「おお、元気?どうしたの?どこ行くの?へえー、そうなんだ。あ、そこの駅の近くにうまいメシ屋があるから行ってみるといいよー」
と、まくし立てる。
もしくは、
「おっ。どこぞのカワイコちゃん(イケメン)が向こうから歩いてくるよ、って思ってたら」
昭和の芸人、みたいな対応。



突然舞い降りた出会いに、以上のような洗練されたコミュニケートが出来るのであれば、オレは手放しでその御仁を、男前、と呼びたいと思う。
なんなら、
「The」
とか、
「King of」
とかまで、つけてもいいと思っている。
それほどに、唐突な出会いに対するコミュケーションは難しいと、オレは思っている。



「あ」



出会い頭におけるオレの反応はだいたいこうだ。
そして、そのまますれ違う。



「おお」



うまくやれた方だと思う。




基本は会釈。
友人なのに、
会釈。
そして、そのまますれ違う。



なんだオレは。
なんだこの、成功を勝ち得たかのような落ち着きは。
これじゃまずいと流石に思うので、休日、一人の時は、出会い頭コミュニケーション術のイメトレに専念したりしている。
「あー、折角ばったり会ったのに、面白いこと言えないや」
などと、反則みたいなセリフまで考えたりしている。



とは言え、現実ってものは、
一人の男子の妄想を遥かに超越しているもので。



今日、こんな出会い頭があった。



今朝は雨が降っていた。
駅までの道にはゴミ捨て場がある。
そんな半透明のビニール袋群に混じって、ひとつだけ、なんか違和感を感じるものが目に入った。



女の子。



ゴミ捨て場に、女の子がずぶ濡れで体育座りで、そこにいた。
捨てられた子犬のような目がリアルにそこにあった。
その状況、まさしくアニメ。
多分、なんかのアニメで見たことがある風景が眼前に繰り広げられていた。



勿論、その女の子は知人でも、ましてや友人でもなんでもないのだが、
こんなイメトレ、したことないわけで、
オレは、その脳内アニメの続きはどうだったったっけ、と必死に
「アニメ ずぶ濡れ 女の子」
の脳内検索をかけていた。
オレ、一度立ち止まってみた。
立ち止まってしまった。
女の子はそんなオレの様子を見ている。
なんらかのコミュケーションを求めている上目遣いのあの目。



オレはタバコに火をつけた。
冷静になってみた。



結局のところ、出会い頭ってのは
その人の物語とオレの物語の戦いなわけで。
いかに、オレのフィールドに持ち込めるかが勝負だと思うのだ。
明らかに、その女の子は、壮大な物語を背負っていた。



10分後、オレは電車に乗っていた。
会社に向かうこと。
それがオレの物語。
電車に揺られながらオレは、そればかり、考えていた。