Rockのはじまり

オレがRockって概念を意識し始めた時期を明確にするなら、それは多分、小2の時、友達のK君が書いた「給食のおばさんへ」の題ではじまる絵と文章のコラボレーション作品に他ならない。
とにかく、K君の「給食のおばさんへ」の持つパワーは凄かった。
なんせ冒頭の文章がこれだ。

給食のおばさんがつくるカレーは、う○こなのだ。

断言だ。まずK君は、カレーはう○こなのだと断言した。そして続けた。

ぽっくんはう○こが嫌いだ。

当たり前だ。
「う○こ!」と言い続けていれば、その日一日がhappyで居られる小学生は沢山居るかもしれないが、じゃあ実際「う○こと結婚するか?」(小学生はすぐ結婚の話になる)という問いには、どの小学生も「NO!」と泣き叫ぶに違いない。
K君は続ける。

つまり、給食のおばさんも、う○こなのだ。

つまりもなにも、何の説明も為されてないのだが、K君の作文の上には、イエローの液状の何かが給食のおばさん達を巻き込んでいる、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されていて、小2のオレは、その地獄絵図の持つパワーに、確かにそうだ。と納得させられてしまうのだ。



K君の書いたように、オレの小学校の給食のカレーは激マズであった。う○こ、と称されても仕方無いと、今は思う。ただ、オレは給食当番ということでいつもおばさんたちの笑顔を、カレーの入った鍋が嵌ったカートを取りに行くたびに見ていたから、おばさんのことを悪く言うなんて、考えただけで悲しい気持ちになったし、そもそも、大人のことを悪く言うなんて、恐ろしくて想像もつかなかった。



それでも、K君はとまらない。

ぽっくんは、カレーもおばさんも、う○こになって、爆発してしまえばいい。へけけ!!

オレが小2の時に大流行していた「茶魔語」をふんだんにあしらつつ、K君は「給食のおばさんへ」を締めくくった。
そして、よく考えるとここが謎なのだが、K君の「給食のおばさんへ」は何故か職員室前の廊下にある緑色の掲示板に貼り出されていた。オレは休憩時間になる度に、まっさきに職員室へダッシュかまし、K君の「給食のおばさんへ」を見に行っていたから、覚えている。
オレは1時間ごとにK君の「う○こ」発言に腹をかかえて笑っていた。
そうか。自分が正しいと思うことを表現するのは、こんなに気持ちのよいことなんだ!とオレはゲラゲラと笑いながらも、感じていたのだと思う。別に大人なんて恐くねーじゃん!、と「給食のおばさんへ」はK君の作品なのに、まるで自分が仕掛けたかのように、勝手な共犯者気分に浸って、気持ち良くなっていた。



これがオレのはじめてのRock体験です。
未だに「Rock」と聞くとK君の「給食のおばさんへ」を思い出す。Rockの酸いも甘いも、K君は教えてくれた。



そして、K君の「給食のおばさんへ」は3日ぐらいして、給食のおばさんからクレームがつき、職員室前の掲示板から外され(当たり前だ)、ある日K君は授業中に校長室に呼ばれて2時間ぐらい帰ってこなかった。



K君は、オレ達が小4になった時に、転校した。
その頃オレたちは、K君のことをすぐに忘れてしまって、夕暮れまでドッチボールに夢中になっていた。
ボールを思いっきり投げること。
それのみが、その時、オレの正義であったと思う。