男前のはじまり

その日、Yさんとオレは池袋の串焼き屋に居た。
2人合わせて、100000ポイント。
100000ポイントを失った午後5時。
あと0が一つでミリオンな2人は、打ちひしがれていた。



2人で居れば、喜びは2倍。悲しみは半分。
そんなことはない。
『打ちひしがれ』×2人×100000ポイント。
=人生最大の『打ちひしがれ』
最大すぎて、一周まわって、ちょっと笑っていた。
オレ達はきっと頭がおかしいのだ。
そんな時でも、ビールは『乾杯』なのだ。
『おつかれちゃん』なのだ。
ああ、そうか。
『完敗』か。(冴えてない)


(以下、一部脚色を加えております)
  オレ「じりじりしますね」
  Yさん「じりじりするね」
  オレ「……」
  Yさん「……」
  オレ「……(いい年こいて、居酒屋での話題がこういうのって…)」
  Yさん「手持ち3000円しかないよ、オレ」
オレとYさんは、お通しに出されたキャベツを大事に食べていた。
  Yさん「富士山に登ったのに。山の神がついていると思ったのに」
Yさんは前の日、富士山に登っていた。
上がったり下がったり。そいでもって下がったり。
  オレ「もっと有意義に時間を使えばよかった」
  Yさん「100000ポイントあれば、いいちこが100本買えたよ」
なんだろうか、この成長の無さは。
なんだろうか、このレベルの低い反省は。
  オレ「オレは、もっと男前になりたいです」
男前はきっと休日観劇とかする。
男前はきっと散歩してコーヒーとか飲む。
  Yさん「……なれると思うよ」
  オレ「えっ?」
  Yさん「……なれる! オレ達のポテンシャルならなれる!」
  オレ「そうですかね?」
  Yさん「(席を立ち)寄席も、旅行も、ウイイレも、映画も、……オレ達はなれる!」
Yさんとオレは趣味がかなり一致するのに、わざわざ100000ポイントを失ったりする。
  オレ「なれますかね?」
オレはもはや『打ちひしがれ』の犬であった。
反省が快楽に変わっていた。
  Yさん「なれる! なれるんだよ! なれなきゃ、オレ達は一生男前になれない!」
  オレ「なれる。なれるのか! ソファーにゆったりと腰をかける男になれるのか!」
  Yさん「そう!」
全くもって信用ならない論理だが、もはや頼れるのは勢いだけであった。
  二人「(こぶしを突き上げ)なれる! なれる! なれる!」
カイジの鉄橋編の如く、
男二人は、現実を直視することから逃避し、
ひたすらに
「男前になる」
という抽象的な言葉に救いを求め、
早速、コストパフォーマンスが高いホッピーを頼むのであった。



はたして、二人の煙草が葉巻に変わる日は来るのだろうか?
時間を腐らすことなく、糧に変えることは出来るのだろうか?
大いなる希望と大いなる誤解を内包して、



『男前計画』



はじまります。