ご馳走のはじまり

地方のブックオフを『ご馳走』と呼んでいる。
そんな感じで、オレは周到に、自分の周りに『ご馳走』をいっぱい用意して、生活している。貧窮に抗うことなく、むしろ貧窮の中に体そのものを投げ出して、角度を変えたら美人にみえないこともない的な、そんな解釈を、オレはオレの『ご馳走』達に見出して、生活している。精一杯生きていますオレ。



と。書き始めてはみたものの、哀し過ぎる。
質素過ぎる。無駄にストイックではないだろうか。ストイックという名のRPGではないだろうか。
確かにストイックは対象そのもののポテンシャルを底上げする力がある。要は、ベクトルの上げ下げってことで、やたら新鮮に感じたり、有り難く感じたりする状況。でも、オレは別にストイックを計算して、望んでいるわけでない。出来ることなら、古本じゃなく、新刊で生きていきたい。わけのわからないメモやアンダーラインの入った小説など、誰が読むものか。つまり、ストイックにならざるを得ない経済状況が、地方のブックオフを、オレに『ご馳走』と呼ばせているわけで、出来ることなら、アマゾンで怒涛の勢いで買い漁りたいわけ。カウンターで食す寿司だけを『ご馳走』とのたまっていたいよ、オレは。



などと、現状を理解し、理想を精一杯描いたところで、オレの『ご馳走』が寿司になるわけでもなく、地方のブックオフは今日も垂涎本を『ご馳走』価格で叩き売っている現実は変わらないわけで、オレは今日も『ご馳走』を堪能するべく、一生懸命ストイックなのであります。



来週、地方に出張行くことが決定した。即座に開くは、インターネット。そう、ブックオフのホームページだ。つまり、ブックオフの有無。それを迅速に調べる。調べ上げる。駅周辺に『ご馳走』がないのであれば、早急に判断を下さなければならない。
「あー、ちょっとここもまわっていいですかねー」
と、上司に提案。
「朝一からまわってもいいですかねー」
と、レンタカーを手配。
余談だが、その時、ちょっと苦笑いを含んだりすると、「朝一のめんどくささを、本当にめんどくさいと思う素直な顔(甘えん坊の後輩)」と「めんどくささを承知しつつ、仕事ですからねー、と思う一人前の顔(ピシッとした大人)」を演出出来て大変具合がよろしい。ただ、苦笑いがにやけになると、途端に上司は不安になり
「お前には任せられない」
と、上司同伴地方出張という、この世の生き地獄のひとつを味わう羽目になるので、この苦笑いは上級者テクと言える。



そんなリスクを背負い、また、昼飯の時間を削ってでも訪れたいと思える地方のブックオフは確実に『ご馳走』然としており、地方出張日までのオレはというと、綿密なる現地調査(レンタカーする駅から前後3駅ぐらいまでの、ブックオフをリストアップ)。そんな努力という名のデミグラスソースをかけ、艶やかに仕上げた『ご馳走』日を、いまかいまかと待つのである。



ここでひとつ問題なのは、今、オレの部屋の隅を占領しているイエローのビニール袋に入った、手付かずの古本達で、整頓されてはいるが、確実に『ご馳走』の食べ散らかしであって、本質を見失っている気もしなくもないが、まあ、いいや。
そんなこんなで、楽しく生活している今日この頃。