さまよいのはじまり

妹が池袋で『スイングガールズ』を観るというのだが、何時に始まるかわからないようなので、調べてあげた。そしたら、その映画館の場所がわからない上に、前売券をどう処理していいのだがわからないというものだから、オレは一緒に池袋に行った。そして映画館を案内し、映画館の人に前売券の取り扱いの説明を聞き、それを後ろに居る妹に伝えた。そんな妹は今年21歳です。
そして、妹の友達との待ち合わせの時間まで、ビックカメラで新作携帯を吟味し、ノキアから新作が出るらしいボーダフォンを解約したことを悔やみ、そして、別れた。
なんという休日の過ごし方なんだろうと自覚はしている。こんな天気の良い日は外に出た方がいいに決まっているのだが、しかし、如何せん理由がない。だから、この位のゆるい強制力で連れて行かれる池袋は結構願ったり叶ったりだったりするのだ。
オレは、いつものようにジュンク堂へ向かう。マイフェイバリット本屋。コースは決まっているのだ。早速、9階の映画コーナーに向かう。しかし、演劇コーナーで宮沢章夫の「牛乳の作法」という未見の本を発見したので、近くの椅子で読み始める。
宮沢章夫は、目的も無く彷徨う。歩くスピードが私の視点、と言う。
オレも彷徨おう。池袋の行く場所なんて、だいたい決まっているのだ。もう少しゆっくり歩こう。あてどなく歩いて見えてくる新しい街があるのなら、それはとても素晴らしいことなんじゃないだろうか?
オレは本屋を出る。そして、早速御飯を食べにお店を探す。お腹がすいているからね。仕方ない。近くのオシャレベーグル屋に入る。腹も満たし、本を読んでいたのだが、隣のカップルの会話の弾まなさがどうしても気になってしまい、オレは、本の文字を目で追いつつも、意識は隣のカップル以上に隣のカップルだった。
ちらっと男の顔を見る。
どこかで見たことがある顔だ。誰かに似ているとかではなく、どこかで見たことのある本人そのもの。友達ならすぐわかる。仕事関係?いや、こんなにのっぺりとした顔と仕事した覚えはない。映画?いや、華がない。演劇?うーん。微妙。ありそうでなさそうだ。
ちょっとして、そいつが誰だかわかった。



お笑いコンビ18KINの突っ込みの人。



全然嬉しくない。
むしろ、18KINのファンでもなんでもないオレの潜在意識に刷り込まれている彼の顔に哀しくなった。そして、「ベーグルマジうめえ」を彼女に連発する彼は、お笑い芸人では決してない。「18KINの突っ込みの人」は、きっとオレの思い過ごしだ。



すべてがどうでもよくなる休日の出来事。
宮沢章夫が言っていた視点はきっとこういうことじゃない。